2012年5月1日火曜日


12.爆走3,000q(平成10年7月)

7月25日(土) 晴れ
 いよいよ出発の朝がきた。
 今日は十和田湖までの600qあまりを走る予定だ。
 6:30 両親と子供たちに見送られて出発する。
 夜来の雨も上がり、あたりが朝日によって金色に輝いている。
 土曜の朝ということもあり、交通量もさほど多くない。
 順調なすべり出しだ。

 窓のフィルムをおろし、前面のベンチュレーションを全開にする。
 上半身に涼風をあびるので、真夏ではあるが少しも暑く感じない。

 8:30 佐野インターより東北自動車道に入る。
 ここから長い高速道路の旅の始まりだ。
 53にふさわしい旅とは言いがたいが、53とは良路であろうが悪路であろうが、どこまでも共に走り続ける覚悟を決めたのだ。

 巡行速度を80qにとる。
 右腕を窓枠にかけ、ゆったりとした気分で走り続ける。
 映画「イージーライダー」のツーリング・シーンが脳裏に浮かぶ。
 4DR6型ディーゼルエンジンの規則正しい鼓動、幌のバタツキ、顔に当たる涼風、ロードノイズまでもすべてが心地よい。
 そして、次々と展開される景色を見ていると、時間のたつのさえ忘れてしまう。

 フワフワとした白い綿をちぎったような雲を見上げ、キラキラ光る川を何本も渡り、悠然とした山々をあとにしてひたすら走りに走った。

 18:00 目的地の十和田湖に着いた。
 目の前に広大な湖が広がる。
 湖沿いの道の反対側には清潔そうなキャンプサイトがあり、すでにかなりの数のキャンパーが夕食のしたくをしているのが見えた。
 休息のために我々は、ホテル街そばの湖が見える駐車場で停車した。

 車を止めるや否や一人の自転車の老人が近づいて来た。
 「だんなさん、いいお宿がありますよ。ご予算はおいくらですか?」
 満面笑顔で、もみ手・すり手の老人のもの腰は低かったが、百戦錬磨のしぶとさが感じられた。
 私の脳裏に先ほどの清潔そうなテントサイトがチラリと浮かんで消えた。

 確かに今回の旅にはテントと寝袋を用意してきた。
 しかし日頃より、たまには愚妻に温泉でのあげ膳すえ膳の思いをさせてやりたい とも考えていた。
 私はこの老人の言葉を天の声と受けとめ、彼の自転車のあとに従った。
 本日の走行距離653q。